三成が何か叫んでいる。元親がそれをなだめて落ち着かせている。
「そうだ」
脳内は相変わらずワシ最強伝説のことで占められていたが、不思議なことが一つだけあったのをすっかり失念していた。
「元親」
「あん?」
「三成がワシの家にいるって知ってて――いや、知ってたよな?」
「……靴が、な」
「自分の持ち物すべてに名前を書いておくようにと半兵衛様に教わったのだ」
「うん。たった今謎が解けました」
だから元親は三成の靴を食い入るように見つめていたわけか。
「それにしてもワシはまったくラノベの主人公になった気分だよ。事実は小説よりも奇なりって本当なんだな」
「……家康。本当に、すまなかった」
元親は床に額を擦り付けるような勢いで頭を下げた。ポンと彼の肩に手を置く。
「もう、やめよう。それにワシがお前のことを殺したのなら、謝らなければならないのはワシの方だ。すまない、元親」
「家……康……」
「私は、私は、貴様を許さない!!! 巫山戯るのもいいかげんにしろ!!!」
「石田。石田。空気読もうぜ。うん空気読もう」
「何だそれは美味いのか!?」
「アホの子オオオオオ!!!!!」
「うーん、三成はちょっとカルシウム摂ろうか。怒鳴るのは良くないぞ?」
背こそ高いが骨密度が危うそうだ。抱き締めただけでもなんか折れそうな気がする。にぼしとかいいかもしれない。一心不乱にずっともぐもぐ食べてる映像が浮かんでくる。ちょっと笑えた。可愛くて。
「黙れクソ狸!!」
次の瞬間には三成の足がワシの顔面にめり込んでいた。
あ、パンツ見えそう。

……鉄壁スカートだった。っていうか男じゃん。三成。

「三成……痛い……」
「貴様が悪い」
「痛い……」
「知らんな」
黙って座っていたら美少……いや美少年なのに。あれか。今はやりの残念なイケメンってやつか。
「はーい。せんせー質問でーす」
「何だ」
「では長曾我部君質問をどうぞ」
元親がお菓子を食べる手を止めて、挙手をした。
すっかりいつものノリである。やはりこれが一番いい。
「お前らどこで会って、どうして、そんで最終的に家康のうちに来ることになったんだ」
「……言ってなかったか?」
「言ってないぞ」
「俺知らない」
「長くなるが……」
「聞かせてれ」
まず最初に何があったか、と考える。そうだ、全ての始まりは通学路にあるゴミ捨て場だった。
「ワシの家の近所にゴミ捨て場があるだろ? そこに捨てられてたゴミの山に三成が顔面を突っ込んでいてな。セーラー服の」
「は!?」
「驚くのも無理はないさ。どうしてゴミ捨て場なのかって――」
「いや、そこじゃなくって、いやそこもそうなんだけどよ……セーラー服、家康、お前が着せたんじゃねえのか?」
「どうしてそうなる!?」
半兵衛殿とやらといい、元親といい。なんだか理不尽だ。ワシって一体何なの。
別に男の娘には興味ないよ。良く「徳田君はゲイっぽいよねー」って言われるけど、生粋のノンケだよ。あれ、でも、別にワシ三成ならイケなくもない……気がする?
「だってお前、戦国の時石田に女物の着物着せたい着せたいって言ってたからよお。ついに決行したのかと」
「何ワシそんなこと言ってたの!?」
「言ってた」
「言っていたな。勿論、そのような口を聞いた貴様を斬滅し、ボロ雑巾のようにして捨ててやったことも私は覚えているぞ」
「……にも関わらず今セーラー服を着てるのはどういう了見だい、凶王さん」
「半兵衛様のなされることに間違いはない。それより、貴様、長曾我部。今の私は石田ではない。美肆多、、、だ」
「いいだろ別に。俺はこっちのが落ち着くんだよ」
「……はい」
今度はワシが挙手をする番だった。控え目に。
「徳田君どうぞ」
「続きを話してもいいだろうか?二人の会話に水を差すようで悪いんだが」
三成の元親に対する態度はワシのものよりもトゲが少ない気がした。それが、どうしてだろう。もやもやする。心の蔵に霧がかかったように。
無理なことなんて分かっている。三成を殺したのは誰だ。他でもない、この、自分だ
だが、三成。お前はまだワシを好きなんじゃなかったのか。


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