幽霊

私の名前は小栗恵美。小6の女の子です。
私の家は、お寺なのです。
といっても、小さい、田舎風のお寺です。
私は、いままでごく普通の生活をしていました。
そう、あの子が現れるまえは――。

《ねえ、ねえ、学校行くなら連れてって〜〜!!》

私が学校に行こうとすると、透けている女の子が、私に話しかけます。
歳は、同じ位でしょうか。

「駄目!!」

私は、軽く其の女の子を睨みました。
すると、女の子は、目に涙を溜めました。

《如何して?迷惑かけるから?今日は大人しくするから、連れてって〜〜!!!》

とうとう、女の子は泣き出しました。
いっつもこんな感じです。

「駄目って言ったら駄目!!」

私は、大声を上げました。
そういった後で、私は口を両手で押さえました。
間もなくして、お母さんが玄関にやってきました。

「恵美!!朝っぱらから何大声出してるの!!近所迷惑でしょ!!?さっさと学校行きなさい!!」

と、お母さんが私の大声よりも、大きい声で言いました。
近所迷惑と言っておきながら、なぜお母さんも大声を出すの?
と、私が言う前に、お母さんが私を寺から出しました。
私はため息を付くと、寺の前にある階段を降りました。
私のすぐ後ろには、あの女の子が居ました。
あれほど駄目って言ったのに……。
全然、言う事聞いてくれません。

大体、あの女の子が見えるように名なったのは、友達が出来た頃です。
何の前触れもなく、突然見える様になりました。
最初、私はとても驚きました。
どうやら、あの女子は、私以外見えない見たいです。
其の証拠に、兄、母、父に其の事を言っても、誰も信じてくれませんでした。

「あ!恵美!お早う!!」

階段を下りたところで、友達が待っていました。
名前は、「小林 瞳」と言います。

「あ!お早う瞳ちゃん。今日もさむいね。」

「そうね、今日、家の前に氷張ってたよ。」

「そうなの?」
そんな会話をしながら、私は瞳ちゃんと一緒に歩きました。
瞳ちゃんは、小6に入ってからの、初めての友達です。
小5のとき、クラス替えがあって、仲のいい子が別々のクラスに行ってしまって、私は孤独でした。
其の時、瞳ちゃんが声を掛けてくれました。
孤独だった私には、とても嬉しかったです。
でも、それと同時に、女の子が私の目の前に現れたのです。
この女の子さえ居なければ、どんなに楽だろう……。

「恵美?どうかした?ボ〜ッとして。」

心配そうに、瞳ちゃんが問いかけます。

「え!あ…ううん、何でもないよ。」

私は慌てて、首を横に振りました。
「そう、なら良いんだ。」

瞳ちゃんは、笑顔でそう言います。
其のとき、瞳ちゃんの被っていた帽子が、突然地面に落ちました。

「…あれ?風なんて吹いてないのに…。」

瞳ちゃんは、辺りを見回しながら言いました。
私は、 帽子が落ちた原因を知っています。
私は、後ろを振り向きました。
案の定、女の子が笑ってます。

「ちょっと!瞳ちゃんの帽子落としたの貴方でしょ!!」

私は、小声でそう言いました。
女の子は、自身満々に首を縦に振りました。

「迷惑掛けないって言ったよね?如何して迷惑かけるの!!?」

《迷惑じゃないよ?悪戯だよ?》

キョトンとした顔で、女の子は言いました。

「悪戯も迷惑に入るの!!!」

「……恵美?どうしたの?」
何時の間にか、私は大声を出していました。
瞳ちゃんは、もう帽子を被っていました。

「な…何でもない!!本当に何でもないから!!さ!早く学校行こう!!遅刻ししちゃう!!」

私は瞳ちゃんの背中を押しながら、言いました。

「おっ早う〜〜!!」

瞳ちゃんが、元気な声で教室のドアを開けます。

「お早う、瞳。」

「今日、一寸遅かったね。寝坊?」

教室の彼方此方から、声が返ってきます。
瞬く間に、瞳ちゃんの周りは人でいっぱいになりました。
私は、人を掻き分けて、自分の席に座りました。
瞳ちゃんは、フレンドリーで、直ぐに友達が出来ます。
私とは、正反対です。
私は時々、瞳ちゃんが羨ましくなります。
もし、私が瞳ちゃんみたいな性格だったら、友達が沢山出来て、とても楽しいと思います。
暫くして、音楽が鳴りました。
朝読書の時間です。
私の学校では、朝、読書を読む時間があります。
それを、朝読書と、私達は言います。
教室の中は、本を全員読んでいるので、静かでした。

《恵美〜、暇〜、遊ぼう〜!!》

女の子が、口を尖らせながら言いました。

「静かにして!!五月蝿い!!」

私は、小声で言いました。

《恵美〜!ひ〜ま〜!!あ〜そ〜ぼ〜!!》

ついに、私の堪忍袋の緒が切れました。
私は、思い切り机を叩いて、立ち上がりました。

「――五月蝿い!!いい加減にして!!!」

クラスメイトは、私を見ていました。
皆、ビックリした顔で私を見ていました。

「す…すいません。」

私は、顔を真っ赤にさせながら、頭を下げると、席に着きました。
女の子の方を見ると、皆と同ような顔をしていました。
               §
私は、委員会の当番で、下校が遅れてしまいました。
ランドセルが教室にあるので、取りに行こうと、教室のドアを置けようとしました。

「あのさ、恵美って気持ち悪いよね〜。」

私は、ドアを開けようとする手を止めました。
今の声は、「天道 茜」ちゃんです。
茜ちゃんは、多少口の悪い女の子です。

「そうそう、何か、小声で一人ブツブツ言ってるよね。」

今の声は、「佐藤 鈴香」ちゃんです。
鈴香ちゃんは、茜ちゃんの友達です。 

「私なんか、今朝帽子飛ばされたのよ。」

私は、耳を疑いました。
其の声は――瞳ちゃんだったからです。

「え?風でも吹いたんじゃないの?」

と、茜ちゃんが言いました。

「違うの、何の前触れも無く帽子が落ちたの、あれって、絶対わざとよ!!」

違う、あれは女の子が……。

「え〜!!最悪じゃん!!恵美って、そんな奴だったの!!?」

大げさに驚きながら、鈴香ちゃんが言いました。

「それだけじゃないわ。あいつの近くに居ると、ろくな事起きないわよ。」 

「あいつ、呪われてんじゃないの?」

――て。

「だったらさ、家族全員呪われてんじゃない?」

――めて。

「そうだよね。だってさ――。」

――止めて!!!!

私は、思いっきり教室のドアを開けました。
三人は、一斉に私を見ました。
私は、ランドセルを掴むと、三人の顔を見ずに、教室を出ました。
私は、我武者羅に走りました。
後ろから、女の子が付いて行きます。

私は、海の見えるカーブの所で、息をつきました。
息は上がっていて、落ち着かせるのに時間が掛かりました。
息が落ち着いた頃、女の子が遣って来ました。

《恵美、大丈夫?》

「――ないで。」

《……え?》

「付いて来ないで!!!」
叫んだとき、目から涙が出るのが判りました。
私は、女の子のほうを振り向きました。
女の子は、私の顔を見て、驚いています。

「――貴方のせいよ!!貴方がいなかったら、私、こんな事言われなかった!!!瞳ちゃんと、ずっと友達で居られた!!!貴方が、私の人生めちゃめちゃにしたのよ!!!――もう二度と、私の目の前に現れないで!!!」

私はそういうと、また、我武者羅に走り出しました。

《恵美、待って!!!》

女の子は、慌てて私の後を追いました。
私は、涙で前が見えない状態で走ってました。
すると、後ろから、悲鳴などの声が聞こえました。

「貴方!!まだ信号が――。」

気が付いたときには、横に、大きなトラックが目の前に現れました。
ブレーキの音。
クラクションの音。
人々の悲鳴。
そして――。

《――っ恵美!!!》
               §
それから、次に気が付いたときには、私は白い空間の中に居ました。
見渡す限り、白。
右も左も上も下も判らない空間でした。
其の空間で、女の子が居ました。
とても、優しい目で私を見ています。

《恵美、私、今まで楽しかった。また、会おうね。今まで、困らせちゃって御免ね――じゃ。》

女の子は、そういうと、片手を挙げました。
そして、霧のように消えて逝きました。
               §
「――恵美!!」

目が覚めたとき、家族の顔が見えました。
皆、目に涙を溜めています。

「お母……さん?」

私の声は、とても弱々しかったです。
お母さんが、私を抱きしめて、何度も、何度も私の名前を呼びました。
そして、最後は泣いてばかりいて、言葉に為っていませんでした。

お医者さんから聞いた話だけど、トラックのブレーキが間に合わなかったら、私はもう死んでいたと言っていました。
私は、治療一ヶ月の骨折と、打撲で済みました。
其の怪我は、女の子の御陰だと私は思っています。
女の子が守ってくれなかったら、もっと酷い事になってたかも知れません。
……女の子に会ったら、ちゃんとお礼したいな。

この日を堺に、私は瞳ちゃんとの付き合いをやめました。
それと同時に、新しい友達が出来ました。
其の子は、「霊山 美桜(かみやま みお)」ちゃんといいます。
美桜ちゃんは、幽霊の女の子にそっくりの顔をしていました。
でも、性格は正反対でした。
たぶん、他人の空似でしょう。
               §
此れで、私の奇妙な話は終わりです。
さて、時間なので、そろそろ行きます。
――え?何処へ行くのかって?
中学校ですよ。
だって、今日から私。
――中学生ですから――。

END


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