関ヶ原×関ヶ原

【プロローグ】
九月十五日。朝の八時半。JR関ヶ原駅にて。
「いっええええやああすううううう!!!! 貴様が!! 八時に集合だと!! 言ったのだろうが!! 今何時だと思っている!!」
三成が憤怒の声をあげる。なにぶん狭い駅なので、それは嫌というほどあたりに響いた。面倒ごとに巻き込まれまいと構内にいる人々は、そそくさとみなが出入り口に向かってゆく。
人の波に逆らってやってきた家康が頭を掻いて
「悪い悪い。少々道に迷ってしまってな」
三成が舌を打つ。
「いいか。今日は貴様が足だ。しっかり働け」
「あ、足って……まあいいか。それでどこに行くんだ?」
「刑部の墓」
「他は」
「行かん」
「せっかくここまで来たのに!? あ、おもしろいテーマパークがあるって聞いたぞ。そこにしよう。そうしよう」
「テーマパーク?」


【関ヶ原ウォーランド】
「ここにはワシたちの中の人のサインもあるんだ! 来た時は是非見てくれ!」
「貴様誰に向かって喋っている」
「細かいことは気にするな三成。それにしてもなんか凄い所だな……日本珍スポット百景に入るだけはある」
「これのどこがおもしろいテーマパークだ家康ゥ……」
「おお信玄公がいるぞ三成!!」
「ノーモア関ヶ原合戦……」


【大谷吉継の墓】
「暑い」
「暑いな」
「第一私はこのような森の中を歩くとは聞いていない」
「いやワシもそれは知らんかった。だがもうすぐ――着いた」
「ぎょうぶうううううう!!!!!」
「三成転ぶぞー」

「うん。静かでいい場所だ」
「……ああ。刑部もゆっくりと眠れそうで、よかった」


【関ケ原町歴史民俗資料館】
「結構いろいろ展示されてるんだな」
「見ろ家康。貴様が秀吉様から天下を奪い、私を倒すまでの過程がボタン一つ押すだけで解説される」
「うわあ。三成辛辣」


【笹尾山】
オレンジの絵具をぶちまけたような空が目の前に広がっていた。一日が終わる。
「ラストは三成、お前の陣だ。さすがは三成。眺めがいい。景色は昔と変わったか」
「建物が増えた」
「そうか」
「……私はもう、二度とここには立たないと思っていた。もちろん貴様とな」
三成が家康に向かってにいっと口角をあげる。
「三成……」
「家康。すべて貴様の作ったものだ。貴様の作った太平の世だ。忘れるな」
眼下を見つめながら三成は。

「また来ようか」
「……次は遅刻するな」


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