黒田さんの受難

「なぜじゃ〜っ?」
大空の元一人の男がこう叫んだ。
名は黒田官兵衛。
そもそも何故彼が叫んでいるのかというと勿論訳あってのことだ。
ことは数刻前にさかのぼる……



「紀之介に子供を生んでもらいたいのだが、どうしたらよいのだろう」
一瞬自分の耳を疑った。
ついに自分まで病にかかってしまったのか……と。
「え、え何!?」
ふはははそんなことありえん、ありえんと思いつつもう一度聞いてみる。
だが結果は悲しいものなのでした。
「だから、紀之介に子供を生んでもらいたいのだが、どうしたらよいのだろうかと言っているのだ。はっ、若くしてもう耳が遠くなっているとは」
な、殴りてぇ……とっさにそう感じた。
黙っていればまだまだかわいい幼子なのに、もったいないというか残念というか…
ところでなんだ、子供を生むにはだと?
黒田も齢十七歳。
昔「赤ちゃんはコウノトリが連れてくるんですよー(笑)」という嘘を半兵衛様から聞き鵜呑みにしていた時期もあったが、今は子供の出来方も知っていたし、手順も大体理解しているつもりであった。
しかし、問題は相手が女ではなく男という点にある。
医学的にとか生物学的にとかそんな事は無視するとして、そもそも入れる穴が無いだろ。佐吉には悪いがここでハッキリ言ってやろう。
「あのな……吉継は男だ。男に子供が生めるわけが無い」
「どうして!?」
子供というのは時に残酷な生き物だ。
内心あせりまくりの官兵衛に追い討ちをかけるように、三成はうるうると瞳を滲ませ詰め寄っている。
どういう風に誤魔化そうか、子供に泣かれた場合居の対処とかもうどうしようとかっていうかぶっちゃけ厠行きてぇ!!

以上のことで叫んでいたわけである。
「っていうかなんで俺に聞くんだよ!! 意味わかんねぇ!! 半兵衛様とか半兵衛様とか半兵衛様に聞けばいいだろうに。地球爆発しろ!!」
今では二兵衛・両兵衛と竹中半兵衛とともに称される黒田であったがこの頃では小姓と主という間柄。
自分よりも豊かな人生経験も頭脳に蓄積されている知識も彼にはある。
そしてなにより佐吉の扱い方も慣れている彼(ここが一番重要である)の方が相談役としてもってこいなはず。
「何なんだよまったくぅぅぅぅぅ!!!!」
「どうした、黒田。そんな大声を出しおって」
すぐ近くの角から出て声をかけてきたのは、悩みの主に根本的人物の大谷吉継だ。
最近寒暖の差が激しいので、体調を崩していると話を聞いていたが外に出ているということは良くなったのだろうか。
「お前と佐吉のせいだ」
事情を知らないといえ、いつもどうりののんびりとした口調が少しだけ気に障ったもんだからぶっきら棒に言ってやった。
とんだ八つ当たりだ。
「我と佐吉?また、それはなして……?」
包み隠さず話してやった。
話し終わると吉継が腹を抱えていたので、妙な話を聞いてまた体でも悪くしたのではないかと思ったが、その心配はすぐに杞憂に変わることとなる。
「ヒィヒィ愉快、ユカイよ」
笑い出した。
な、殴りてぇ……(本日二回目)
こっちはかなり焦ったのに、笑うことはないだろに。
胸糞悪ィな……
とにもかくにもこの話はここで終わりにしよう。
「佐吉になんとか言ってやってくれ。俺には無理だ」
「あいあい」
何か考えが浮んだのか、少しだけ意味深な笑い方をすると佐吉を探しに行く吉継。
ことがこんなにもすんなりいくとは思わず、当初から少しだけ捻くれていた俺は「絶対後で何かあるな……」と呟きつつその場を後にするのだった。

数日後。
あれから佐吉にあってもあの話は出ることがなかったので思い切って何を言ったのかと吉継に聞くことにした。
「で、何を言ったんだ?」
「仲良くしていたら子供ができると教えたのよ。佐吉ならこれで数年はもつであろう」
あー、人のいうこと真に受けやすいからな。
俺も人のこと言えないけど。
「間違えた知識植えつけたとして、女子だけじゃなく男まで子供が生めるって勘違いしてたら……すでに勘違いフラグ立ってんじゃねぇかああああ!!!!」
「黒田め、少し黙れ。五月蝿いわ」
「どーすんだよ、お前! 手順だけ覚えて押し倒されたりしたら!」
「佐吉になら……(キュン」
馬鹿かコイツは!!
キュンって何だよ、キュンて!?
絶対後で何かある……という予想残念ながら当たってしまったようで。
後といっても、もっと大変になってくるのはいつか分からないというところが恐ろしい。
五年後か、六年後か。
明日かもしれないし来週か?
いやだぞ、俺は幼馴染同士が衆道関係とか嫌だからな!!
俺まで色々誤解されるだろうから……

こうして黒田さんの苦労人人生は始まったのでした。


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