No title

※コンラッドの誕生日捏造




「名付け親記念日に、何が欲しい?」
「え?」
あまりにも突然の質問だったので驚いてしまった。
そういえば、もうそんな時期だったか。
無論、自分の主の誕生日を忘れたことなど無いが、自分のこととなるとすぐに忘れてしまうものなのだから。
「ほら、なんか欲しいものないの? 魔王様権限でなんとか出来るものは何とかするからさ!!」
欲しいもの言われて思いつくものはなかったが、無いが借りたいものはあった。
だがしかし、彼はそれを承諾するかどうかで決まってしまう。
……いや折角の名付け親記念日なんだから多少の我儘をしても許されるかもしれない。
そう思ったコンラッドは悪戯っぽい笑みを浮べ言った。
「あなたの一日を俺に貸してください」と。


「それで、どこ行くんだよ?」
頭にすっぽりとフードを被ったユーリが城の城下町へと続く坂道を下りながらこちらを振り返り尋ねた。
地球で見た絵本に出てきた、赤ずきんちゃんを少しだけ思い出す。
可愛いと思いつつ、にやけそうになる顔を必死で押さえ答える。
「城下町探検。そういうのお好きでしょう?」
「うん! なんか、水戸黄門になったみたいでワクワクするんだよなぁ……って、それじゃあ俺が楽しむようなもんじゃん!! 今日の主役はあんただよ、名付け親」
ユーリは利き腕を挙げるとコンラッドに向かって人差し指を向けた。
「俺は、あなたの一日を貸してほしかっただけなんですよ。だから、そんなこと気にしないでください」
分かっていた。
彼がこの爽やかスマイルを見せつけられれば、反論できない事なんて。
だからしたのだ、それを。
俺がそう予想しているのがユーリにも分かってしまったのか、頬を少しだけ膨らませそっぽを向き走って行ってしまった。
「ユーリ!?」
身軽で細身なので、人ごみを掻き分け掻き分け進んでいってしまう。
一方こちらは体格がいいほうなので、追いつくなんて到底無理で見損なわないようにするのが精一杯だ。
いまにも取れそうに揺れているフードに冷や冷やしていると、気になるものを見つけたのか急に立ち止まった。
確かあそこは地球で言うアイス屋だったはず……
さっきの膨れ顔とはうって変わりキラッキラッと目を輝かせているユーリ近づいて聞いてみる。
「アイス好きなんですか?」
すると彼はキラッキッラした目のままこちらを向き、答えてくれた。
「甘いものは全般はね。ドーナツとかーパイとか! ていうか、眞魔国にもアイス屋あったんだな!!」
初めてそれを聞いて、まだ知らない事があったんだなぁと考えさせられた。
そういえば、ヴォルフラムも甘い物好きで以前一人でケーキを抱え込んで食べていたな。
「まぁ、地球のアイスとは似たり寄ったりって感じですが。で何味がいいんです?」
「あっ、えーと、うーんと……」
顎に指を当てショーケースの中のアイスと睨めっこを一分ほど続けだした答えが
「ストロベリーがいい」
またまた、可愛くてにやけそうになる顔を必死で押さえることになったコンラッドは懐から財布を出す。
「じゃあ、お兄さんストロベリー味を一つ」
「へい、まいどありぃ!」

「今日は付き合ってくださってありがとうございました」
「そんな俺言われてもなぁ実際俺の方が楽しんでしたし。でも、やっぱり本当の誕生日に出かけられたら良かったのにな……」
「だからそれは秘密ですよ」
コンラッドはウィンクをしながら人差し指を唇に当てる。
あなたと同じ誕生日なんですと言ったら果たしてどう反応をするのだろう?
すねられるのか、怒られるのか、質問攻めに合うのか……
まぁ、将来言うつもりは無いので考えるだけ無駄だが。
「やっぱり秘密なんだ。あ、そうだ」
何か思い出したのか、ユーリは自らの服のポケットに手を入れると正方形の箱を取り出した。
それを開いている方の手で俺の手を取ると箱を乗せる。
「はい、プレゼント」
「えっ? だって俺は……」
受け取れないと、押し返そうとすると、弱い言葉の中である一つをを言われてしまった。
「つべこべ言わない! 魔王様命令で受けとる!」
「命令ですか……」
「そう!」
もちろん欲しいに決まっている。
彼からの贈り物なら、雑草だって何だってかまわなかった。
素直に「ありがとうございます」と言えなかったのは、今日一日我侭に付き合ってもらってオマケにプレゼントまでもらってしまうのはなんだか、後ろめたかったのだ。
先程の発言は自分が命令という言葉に弱いと知ってのものだろう。
そこまで言わせてしまっては、受け取らないわけにはいかない。
「しょうがないですね。ありがたく受け取る事にしましょう。ところでこれは何ですか?」
「えへへー、コレはね……」
丁寧に箱から出されたものは、ユーリの胸に揺れている魔石と同じサイズの石に皮ひもを括りつけたものだ。
「お守りなんだよ。剣の柄の部分に括り付けておくと、持ち主を守ってくれるんだってさ。誕生日おめでとう、コンラッド」
思わずギュッと抱き締めたくなってしまった。
だが、その前に言うことがある。
「ユーリも、誕生日おめでとうございます」


inserted by FC2 system