No title

※イラスト集の表紙からヒントを得て




「はーい、撮影お疲れ様でしたー」
「お疲れなんだぞー!ところで、この花どうすればいいんだい?」
「持ち帰って捨てるなり煮るなり焼くなり好きにしてください」
「煮る……? 焼く……? ってことは食べられるのかい?」
真顔で花を見ながら首をかしげている様子がとても愉快である。
相変わらずバカだなコイツは。
「ばーか。喰えるわけねぇだろ。決まり文句だよ、決まり文句」
「なっ、バカって言う方がバカなんだぞ!」
「あー、はいはい」
適当に手を振りながら、意識は花のほうに向かっていた。
手のひらよりも少しだけ大きなサイズ。
アルフレッドみたいな花束だったら花瓶に活けていただろうが、こちらはコサージュ仕様になっているのでそれも出来ない。
かといって、大好きな花をむげむげ捨てるのも無理だった。
本当に食べられたらな……と思っていると、すぐ近くの曲がり角で人が見えた。
黒い漆黒の髪が、揺れている。
……そうだ!
「菊!!」
「あら、アーサーさん。そちらも撮影が終わったみたいですね」とニコニコ笑う菊の手には桜。
彼に似てとても可憐な花だと思う。
「まーな。ところで菊、少し目瞑っててくれよ」
「はい……?」
少しだけためらいながらも目を瞑ってくれた。
胸ポケットについていた花を取るとそれを菊の頭にさす。
「もういいぞ」
「……アーサーさん……恥ずかしいですよ……」
思ったとおり、綺麗だ。
どの花よりも。


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