No title

「ちょっと、誉! これ、どういうことなのよ!?」
「なんですかー……うわぁぁぁ!! 窓に!  窓に!」
「真面目に答えなさいなの!オーブンから何かはみ出してるでしょ!」
あかべ子はそう言うと、自慢の垂れ耳を誉れの鼻に強かに打つ。
割といい音だ。
「ッ!! くそう……あぁ、これはベーキングパウダー入れすぎたみたいですね」
「ちょ、どれだけ入れたらこんな風になるのよ……」
オーブンからは、明らかにベーキングパウダー一袋分いれただろうと思われるくらいに中身が出ている。
後、何か不思議なにおい。
「そうそう、今回は隠し味にドクダミ入れたんですよ」
不思議な匂いはコレかー!?
って・・・
「誉のアホー!!!」
こうして本日二回目のあかべ子耳叩き(仮)が炸裂した。

「くうぅ、痛てえですよ……飼い主に向かって……」
「あんたがわる――あら、お客さんよ!」
「お客って、狐じゃないですかーいい加減、溜まり場にするの止めてください」
カランカランと喫茶店特有の鐘の音を響かせて入ってきた新参者に膨れっ面をした。
「別にいーだろー? 誰も来ないんだしさぁ」
「うっ……」
痛いところを衝かれた、という顔をすると大和がニヤニヤとした目でこちらを見ていたので「で、注文はコーヒーですね。はい、そうですね」と勝手に決めつけ、机の上にポットとカップを置いた。
そんな態度にはもう慣れたのか、特に気にせずに自分でコーヒーを注ぎ、ついでにと思って上げたさっき出来たケーキを頬張る。
「……これ何入れたの?」
「誉ったら、ドクダミ入れたのよ!」
「あー、どうりで体によさそうな味がするわけだ」
大和は納得したようにケーキを見ながら頷く。
「別に嫌なら食べなくてもええです」
「いや、これ割と美味い。あ、そうだ。お花見いかない? 今日はそれを誘いに来たんだよ」
「花見……ですか? まだ、季節的に早くねぇですかい?」
「お花見!! 行きたいの!!」
誉は思った。
ここまで目をキラキラさせているあかべ子を見たことが合っただろうか?
あ、いやでも、ご飯を食べてるあかべこはこんな感じか。
「ははー、会長の所は桜が咲くのが遅いからねぇ。ま、まだこっちも咲き始めたばっかだけど」
「土地柄なんだからしょうがないでしょ!」
「で、行くの? 行かないの?」
尺だが多分お客もこないだろうし……
「……行く」

狐の案内のまま着いていくと、カロとつこみがいた。
「他のメンバーばどうしたんですかい?」
「なっちゃんは近くにホラースポットがあるからそっちに行ったし、ノマルは家事が忙しいって。んでまっつんは仕事」
まぁ、いつもどうりである。
「あ、会長ビールどうぞ」
誉はビールを手に入れた!
飲みますか?
はい
いいえ
大和にぶっかける←
………………
はい←
いいえ
大和にぶっかける
誉はビールを飲んだ!
だはそれは、こどもののみものだった!
「こどもののみものって、不思議な味ですよね」
「あーそうだねぇ」
真上に立っている桜の木を見上げると、まだ多くの蕾が残っていた。
夜桜の方が、時折舞い降りてくる花びらの淡い桃色が映えて綺麗だ。
もうすぐ春が来る。


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