No title

時は八月。
本田宅に来ていたアーサーは、畳に四肢を投げ出し暑さと格闘していた。
「あつー……」
時折吹く風も熱風ばかりで体を冷やしてはくれないし、頭上にあるくろがねの風鈴をリンリン鳴るばかりで涼しさなんか感じもしない。
「アーサさん暑さにやられているようですね」
「菊……この家にはエアコンディショナーはないのか?」
我慢の限界が近づいてきてそう聞く。
だが、答えはとて悲しいものだったのだ。
「エアコンディショナー? あぁ、エアコンの事ですね。ありませんよ」
しれっと返されたぞ……
「じゃあ毎年こんな環境下でどうやって過ごしてるんだ?」
着物を着ていてこちらよりも暑いだろうに、汗一掻かずにいる菊を不思議と感じる。
それどころか涼しそうだ。
これは、アジア人の七不思議の一つなのか!?
「慣れでしょうかねぇ。アーサーさんのところの夏は日本よりも涼しいので、そちらに体が慣れてしまってお辛いのでは?」
「なるほど……たしかに今の時期イギリスはこっちよりも涼しかった気がする……」
夏は涼しく、冬は緯度の割に暖かい。
これがイギリスの気候だ。
なんとも良い土地柄だと思われそうだが、雨が多く作物もあまり育ってはくれないという欠点がある。
「ささ、アーサーさん昼食も出来たので起きてくださいな」
「起きたくない……座ってると暑いんだよ」
縁側で四肢を投げ出してる方座っているときよりもはるかに涼しいのだ。
だが、菊の次の言葉ですぐに起きる気になれた。
「まぁ、そんなことを言って……しょうがないですねアーサーさんは寝てたままでいいですよ。私が食べさせますから」
「っ……!? やっぱり、起きる」
「おや、残念」
そんなことをされたら今まで以上に暑くなるに決まっているではないか。


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