エメ編のみんなでご飯食べてたら超絶可愛い

(というか)
(相手が)
(男なんて)


(((言えないよなあ……))) 



「羽鳥さんて、いつもお弁当ですよね」
「え、ああ 、そうだな」
乙女部という異名を持ち、数々の伝説を作り上げてきたエメラルド編集部。
だからこそ、この編集部特殊な決まりごとや約束がある。
今まさに実行されている、昼ご飯は編集部員全員そろって食べる、というのもその中の一つだ。
高野さん曰く、こうすることで女子の気持ちが分かるらしい。
もっとも今日は美濃さんと高野さんが会議でいないのだが。
「恋人に作ってもらってんだろー? このリア充め」
「いや作ってるのは俺だ」
「え、羽鳥さん料理するんですか!? 何でも出来ちゃうんですね! 流石です」
正直自分には無理な話だった。
掃除すらまともに出来ていないわけで、料理などもっての他だ。
いや、掃除どころの話ではないのかもしれない。
洗濯物が相変わらずベットを占領していて、読み終わった新聞や雑誌も廃品回収にも出せておらず部屋の隅に積んであるのだから。
デキる編集になるには家事もきちんとこなさないとやはり駄目なのだろうか。
尊敬の眼差しで見られているとはつゆ知らず、そんなデキる編集は遠い目をして恋人への愚痴を言い放った。
「褒められるほどのことでもないさ。あいつは料理なんかできないから俺が代わりにやってるだけだからな。弁当もついでだ。そもそも本当にあいつは何もできなくて困っている。おにぎりを作ってくれたこともあったんだが、無洗米でないにも関わらず研がずに焚くし形はお世辞にも良いとは言えないし無駄に塩っ辛かったし苦肉の策で翌日リゾットにして何とか食べられたから良かったものの。それに鈍過ぎるにもほどがある。大体こっちが何年片思いしてきたと……そういうところが可愛かったりするんだけどな。あー千秋千秋千秋マジ天使千秋」
……訂正しよう。
ただの惚気だった。
(ってあれ? 千秋ってどこかで聞いたような。誰だっけ?)
「気にするな」
「え?」
「気にするな」
もしかして今、心を読まれた……の……か?
ていうか羽鳥さん怖い。
顔近づけ過ぎですって。
威圧感が半端ない。
ギギギって音までしてる。
分かりましたよ、思い出しませんよ!!
「小野寺」
「はい……」
「小野寺、お前はそれでいい」
むっちゃいい笑顔で言われたー!!
また心読まれちゃったし!!
「で、律っちゃんはどこまで進んでるの?」
それまでずっと豆腐定食と向き合っていた木佐さんが唐突に口を開いた。
豆腐定食というのはちなみに、豆腐好きのため豆腐好きによる豆腐尽くし献立が毎日日替わりで提供されるものだ。
木佐さんは最近になってから食堂に来る度にこれを頼んでいる。
一回だけ理由を聞いてみたときに「年も九歳離れてて、こちとら三十路のちっさい童顔オッサン。加えて肉がお腹に乗ってるとかねーわ」と返された。
正直意味が分からなかったので真相は闇の中だけれども。
「ねー聞いてる?」
ずいと自分の顔を覗き込まれる。
絶対に聞き出してやろう、そんな目。
えー、な、どこまで進んでるって?
何が?
雑誌の進行の話?
「木佐は小野寺が恋人と何処までいってるかってのを聞きたいんだろう」
「そう! 居ないなんて言わせないよ、律っちゃん。よく電話かかってきてたじゃん」
「あれは母親からです。第一横暴で性格悪くて変態でパワハラセクハラ日常茶飯事なのに、進展とか好きとかそんなそんなそんなわけ……」
あー駄目だ駄目だ。
どう頑張ってもにっくき編集長の顔が浮かんできてしまう。
「へーえ、ずいぶんと元気な恋人さんだねえ。でも驚いちゃった。社内恋愛だったなんて」
……しまった。
やってしまった。
カッとなって余計なことを色々と口走ってしまった。
思えば今日は墓穴を掘りまくってる気がする。
三つくらい凄いスピードで穴開けたよ。
恐る恐る隣に座っている全ての始まりを作った人を見やると、目が爛々と輝いていた。
例えるとするならば友達同士で恋バナをしている時の女の子のような感じ。
ひとまずピンチを脱しなければと、以前から引っかかっていたことを問うた。
「木佐さんこそ、携帯を見る回数増えてますよね? それに定時が過ぎるといつもそわそわしてますし。何かあったんですかー?」
「そう……かな? 気のせいじゃないの? なあ羽鳥」
「確か先週あたりに前の日と同じ服装で出社してたよな、お前。校了開けてすぐだったから、家に帰れないなんてのも無いだろ」
羽鳥さんナイス!
内心でガッツポーズをし、勝ち誇った笑みを僅かに浮かべていたところでアラームの音が耳に届いた。
休憩時間の終了を知らせるものである。
「ふっ二人共時間だよ!! 早く編集部に戻らないと!!
椅子をガタガタ大きく鳴らして木佐さんは立ち、早歩きで食器返却口へと足を進め始める。
「行くぞ小野寺」
「あ、はい」
まったく、空気を読まない無粋なアラーム音だったなあ。
人の恋愛に首を突っ込むのはあまり好きではないけれど、やはり少し残念さが残ったような、そんな心持ちだ。
今度のお昼休憩の時に聞き出してみようか。
……いや、やめとこ。
自分のことだから、また変なことを口走りかねない。
「すみません。お待たせしました」
「じゃあ行こっかー」


「会議終わりましたかねえ。美濃さんと高野さん」
「ヒートアップしてそうだし、まだ途中なんじゃね? 特に高野さんなんか」
「大声で怒鳴ってる姿が目に浮かんでくるな」
「やってる間にケンカ腰になってきちゃうんだよね。不思議なことに。それにしても羽鳥にあんなダメな彼女(笑)がいたなんて初耳だわ」
「……それについては触れるな」
「律っちゃんも社内恋愛は大変だと思うけど頑張って!!」
「きささああああんんん」


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