青春ベクトル

これは少し……いやかなり報われない男子高校生と、勝気なツンツン女子高校生のお話。 


彼の故人、大久保利通は親友であった西郷隆盛の死を聞いた折、号泣して鴨居に頭をぶつけたと伝えられている。
「それで何で今お前が鴨居に頭をぶつけてるんだ?」
「スペシャルウルトラDX萩屋のイチゴ大福が買えなかったの!!」
已然彼女は鴨居に頭をぶつけつつ端正な顔を歪め叫んでいるが、一つだけ言いたいことが俺にはあった。
人の家を壊す気か、と。
突然家に彼女がやってきてからずっとこうなのだ。
分かっている。
俺は分かっている。
だからこそ今この場から逃げるためにだな足を浮かせ縁側から外へ逃げようと画策して……
「雄介、逃がさないわよ。おとなしく私に付き合いなさい」
「ちょっ!? え、待て待て待て待て待てフード掴むな痛い痛い死ぬ!!」
しかしながら向こうの方が一歩上手だったようであり、だらしなーくずるずる引きずられながら玄関へと引っ張られていってしまう。
傍から見れば某ご長寿番組の姉と弟のような感じである。
だが俺は絶対に坊主ではない! 絶対にだ。

十五年来の幼馴染。
俺大和雄介と、すぐ隣ですらりとした長い足をもてあまし携帯をいじくっている彼女葉山薫とはそんな間柄。
何の因果か、小中クラスが全部一緒。
薫は中学校三年間ずっと成績上位組みであり一方の俺と言えばうんまぁ・・・という具合で、高校では流石に離れられるだろうと思っていたのにええい皆まで言わなくとも分かってくれ。
俺の志望していた高校は学区の中では底辺校として名高くそりゃあ薫が行くと言い出したときには、校長・教頭・担任・学年主任の学校四代勢力。そして、この他ならぬ俺大慌て。
勿論必死に止めようとしたが、口先で彼女に適うことなど一万年早かったらしく見事五連敗してしまった。
校長はその後、一介の女子中学生に負けたことが相当堪えたらしく山にこもって修行したとかなんとか。
ちなみに後日、何故同じ高校にしたのか聞いてみたら「いい、あんたは私の馬車馬なの! 私から離れることは出来ないし、私がそんなの許さない!」と返ってきた。
若干歪んだ愛情のように聞こえないことも無いけれど、あくまで馬車馬でありそこに愛など存在しない。
っていうかして欲しくない。
「雄介、次の駅で降りるわよ」
「あ、うん。分かった」
薫の声によって現実に引き戻された俺はいつの間にか電車が止まっていたことに気づいた。
田舎町なのでちゃんとしたホームは無く前方では木々が五月の爽やかな風に乗って踊っている。
頭の片隅に置かれている記憶を引っ張り出してみれば、なるほど次の駅の近くには萩屋の第二店舗があったはず。
「♪ー♪ー」
待ち遠しいのか嬉しそうな鼻歌が隣から聞こえる。
こうしていれば可愛い女の子なんだけどなぁ。
神様は色々と残酷ということなのだ。

その後、薫は当初の目的であるイチゴ大福以外にもフルーツ大福やら最中やらドラ焼きやら羊羹やらと色々買い込んで行き主に俺が現在進行形で大変な目にあっている。
戦利品がすごく……重いです……
そしてそんな状態に拍車をかけるように「あ、そうだコレ」という声と共にポーンと前方から小さめの箱が飛んできた。
「おっつつついきなり寄越してくんじゃねぇ落とすだろ……何だよこれ?」
「あんた今日誕生日だったじゃない。だから……プレゼント」
5月5日子供の日、そして多くの人が迎えるGW最終日の今日が俺の誕生日。
思いっきり忘れていたが、老化にはまだ早いぞ自分!!
出会ってから此の方薫に誕生日プレゼントなるものを貰ったことが無かったので若干の違和感を覚えたが、誕生日を祝ってもらうというのは嬉しいものなのであえて気にしないようにした。
しかしこの後雄介は後悔することとなる。
所詮薫は薫。
葉山薫は純ツンツン産なのだから……
彼女はクラッシャー、恋愛フラグはすぐに破滅への道を辿る。

「ぶべぎゃっ!?」
箱の中から現れた赤い拳は見事雄介の鼻頭に見事クリーンヒットした。
そうプレゼントはビックリ箱だったのだ。
「かぁぁぁぁおぉぉぉぉるぅぅぅぅ!!!!!」
大和家に断末魔が響いた瞬間の出来事だった。


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